2012年にベトナムに渡航し、2020年まで約8年間滞在しました。当初はベンチャー企業のオフショア拠点立ち上げを行っておりましたが、紆余曲折ありいくつかの事業を作っては潰すという数年間を過ごしました。観光フリーペーパー事業が軌道に乗り始めた矢先にコロナウイルスのパンデミックが発生し、国境が封鎖するのと同時に事業を休止するまで、8年間ベトナムと関わっていました。

ベトナムでは現地の起業家の友人や現地で事業を興す日本人の話を聞くことがありました。
その中でも、海外進出や海外生活として良く話されていることとは少々違う、印象に残っている考え方やエピソードを紹介できればと思います。

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世界は変わり続けているという当たり前の事実

私が海外研修に来る大学生に話していたエピソードが3つあります。
その1つに映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー3」のシーンがあります。

Doc 「No wonder this circuit failed. It says "Made in Japan".」(壊れても仕方ない、"メイドインジャパン"とある。)
Marty「What do you mean, Doc? All the best stuff is made in Japan.」(どういう意味?日本製は最高だよ。)
Doc「Unbelievable.」(信じられん。)

1955年の世界に1985年からタイムスリップしているシーンの一幕ですが、30年の間に「日本製=安かろう悪かろう」というイメージが「日本製=高品質」というイメージに変わっていることが印象的です。中国製も最近では高品質というイメージに変わりつつある気がします。

ちなみにあと2つはソニーがニューヨークに進出したエピソードと、ホンダがロサンゼルスに進出したエピソードです。

各国の技術力や国力は変わりつつあり、日本も発展途上国だった時代がありました。その時は今の駐在員のような海外進出ばかりではなかったのだと、これらの話を聞いては思うのです。
安全なところから陣頭指揮するものではなく、現場に入っていくこと。そして、30年後には「ベトナム製=高品質」と言われていてもおかしくないこと。中国製は既に高品質と認知されるブランドも増えてきています。そう考えると、日本と同じレベルの安全やリスクを担保した上での海外進出だけが海外進出の正解だとはなかなか思えないのです。

ちなみに在ベトナムの韓国企業では母国には戻らないつもりで家族全員を引き連れての駐在がある程度行われているとも聞きました。各国を横スライドしていく良さと、一つの国に没頭する良さ、どちらもそれぞれ組み合わせると良い組織になるのかもしれません。

現地の人の暮らしを日本人ができない、という謎

社員が当たり前のように暮らしている社会で、日本人はその暮らしをしては危ないというのは少々違和感があります。

例えば、バイクを運転するかどうかという議論があります。
通常のベトナム展開という話では議論にもならずに運転禁止となることが多いとは思いますが、

自ら当地に乗り込んで会社を興すような日本人はバイクの運転を行う方が多かった印象があります。
現地の方々が実際に使っている交通手段を使うというのはマーケットを知るために最も効果的だと思っています。東京であれば電車、山形であれば車、といったように日本でも都市により異なりますが、ホーチミン市の場合はバイクとバスが一般的でした。次に住んだダナン市ではバス路線網が発達しておらず、基本的には現地の方はバイクかバイクタクシーを使っていたのではないかと思います。

一時期本当に資金が枯渇しそうなときは現地の20代と同じ予算で暮らしておりました。海外旅行保険の金額がとても大きく感じ、保険に入らずにベトナムに滞在していました。ベトナムでは薬局が薬の処方を担っており、病院に行かずともある程度の医療が受けられるので当時は全く心配していませんでした。当然薬局での薬は領収書がないこともあり保険対象という話にはならないですし、積極的に推奨するつもりもありません。ただ、現地の方々はそのような環境でも元気に暮らしており、何が何でも日系ないしは外資系の高級病院に掛からなければいけないわけではないと思うのです。
もちろん、脳梗塞や心筋梗塞などベトナムでは治療の難しい病気はあります。すべて日本水準でなければNGというところから、対応できること、できないことを適切に判断した上で行動するという考え方もあるのではないかということです。

いささか極論に聞こえるかもしれませんが、現地の社員やパートナーからするとなぜ同じ暮らしができないのか疑問に思う気持ちは当然のようにも感じます。50年前の日本人は今とは全く違う環境で暮らしていたと思いますが、当時を過ごした祖父も祖母も元気で幸せそうです。現在の日本人だけができない理由は私には見当たりません。

地域によりルールと文化が異なる

打ち合わせに5分遅れてきて、5分遅れて帰る人と、時間通りに来て、30分延長して帰る人、どちらが時間を守っているといえるでしょうか。
ベトナム人は前者のような行動が多く、日本人は後者のような行動が多いように感じています。どちらが正しいかどうかではなく、それぞれの文化によって考え方が異なるだけなのではないかと思うようになりました。
ベトナム人の友人が日本人は終業時間を守らない、と話してくれましたが、まさにそのとおりだと思います。

昨今、エスカレーターで立ち止まって乗るようアナウンスがある傍らを颯爽と駆け上がっていく人をよく見るようになりました。エスカレーターで止まる国、空ける国、止まるようアナウンスが有っても空ける国。
各国、都市によりルールは異なりますし、ルールと文化が異なることもある。これは日本やベトナムだけでなく様々な国や地域であるのではないでしょうか。

以前、ベトナムの地方都市で交通の取り締まりを行っている警察官に何キロ超過で取締を行うのか聞いたことがあります。その際に5キロ超過からは止めると話していました。日本は厳しいだろうから1キロか?と聞かれたことを覚えています。10kmくらいでは止められない事が多い、と話すと信じてくれませんでしたが、これも、日本よりもベトナムのほうがルールに厳格な一例なのではないでしょうか。
守るルールと、それほど厳密ではないルールがあるとして、その区分が違うだけだとしたら日本人はルールを守ると日本人が思っている傍らで相手も同じように思っているかもしれません。

ルールを守ることをやめようと言いたいわけでは決してありません。ルールや文化は地域によって異なり、日本のルール、ものさしをそのまま持っていってもうまくいかないということです。
私もつい日本の当たり前で考えてしまったり、日本のやり方を押し付けてしまうことが多々ありましたが、全く見当違いのところに力を入れてしまっていたと思うこともがありました。

リスクを取ってこそのリターン

無謬性や前例を重視することも重要だと思いますが、それよりも革新性や効率性を重視する事があっても良いのではないでしょうか。
日本の良さと現地の良さの両方を取り入れて、場合によっては日本とは違うルールやマナーに則った行動をしたり、許容できるリスクを判断して取っていく。そういう海外進出も一つの形として考えてみるのも良いのではないでしょうか。

100社の中に1社でもそういう会社があっても良いのではないか、ということで8年間のベトナム生活の中で特に印象に残っている特異なエピソードだけ抜き出してお伝えしました。
繰り返しになりますが、上記のような進出を推奨するわけではありません。リスクや守るべき文化は本来各社、各国、各スキームごとにそれぞれ異なると思います。ただ、すべてのリスクを0にするという考え方は少々もったいないのではないかということで見聞きした特異な例を紹介いたしました。
日本の素晴らしさと進出先地域の素晴らしさをうまくかけ合わせて売上を伸ばしていく日本企業が増えればと願っていますし、そうなっていきたいと思います。

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